器質性構音障害

 発音で言語聴能訓練室に相談に来られる方の中には「器質性構音障害」の可能性がある方がおられます。

 言語聴能訓練室で、もっとも多いのは歯科等で「舌小帯短縮症と言われた」と相談に来られる方です。

 医師や歯科医師に診察を受けたことがない方は、受診をお勧めします。

 医師、歯科医師が発音に関与する各器官の形態や動きを診察し、必要な治療や方針を判断します。

 言語聴覚士は、医師、歯科医師の診断、治療と方針の中で訓練が必要だと判断があった方を対象に改めて発音の検査を行い訓練を始めます。

 舌小帯短縮症では「サ行」「タ行」「ラ行」がうまく言えない、と言われる方が多く、機能性構音障害と誤りの出る音が似ています。


 また、鼻に食べ物が逆流しないようにする蓋の部分が十分に塞がらない、塞がりにくい状態になる「口蓋裂」があります。

 口蓋裂(口の中の上のザラザラ下部分から柔らかい部分の一部、またはすべてが生まれつき塞がっていない状態)の方の症状です。

 ほとんどの場合、生まれてすぐに発見されます。

 けれど、口の中を見て一見問題ない場合でも粘膜の下の筋肉だけが塞がっていないことがあり発見が遅れることも稀にあります。

 声が鼻にかかる、ふがふがした声、咳払いのような声の場合「鼻咽腔閉鎖不全」の可能性があります。

 鼻咽腔閉鎖不全は、口蓋裂以外の原因でも起こることがあります。

 医師、歯科医師が診なければ形の異常が分かりにくい場合もあるので、医療機関の受診を勧められた時には早めに受診して、必要であれば原因に対しての治療を受けましょう。

 

 

 ・人より少し口が小さいようだ

 ・舌が長いような気がする

 ・少し歯並び悪い……等など

 「比べてみれば、ちょっと大きさや見た目が違う。」

    という程度であれば、殆どは正しい発音に影響を与えることはありません。例えば乳歯から永久歯への抜け替わりで、前歯がなくても正しい発音が身についていれば発音にほとんど影響はありません。

 もちろん、心配な時には医師、歯科医師へ相談をするようにしましょう。発音に影響がない場合でも、呼吸や歯の健康の為には治療が必要なことがある為、自己判断はお勧めしません。

参考文献

日本言語聴覚士協会,言語聴覚療法臨床マニュアル,協同医学書出版社,1992

構音障害(発音の障害)

 言語聴能訓練室には、発音の相談が沢山寄せられます。

 そこで、正しく発音できない原因について、ざっくりですがお話してみたいと思います。

 正しく言葉を発音できないこと、を専門用語で「構音障害」といいます。

 構音障害は大きく分けると、聴覚に障害によって正しい発音が学習できないもの、形の問題、運動の問題、明らかな問題のないもの、4つに分類できます。

(1)聴覚の問題によるもの

 聴覚性構音障害は、いわゆる難聴により手本となる正しい発音や自分の発音を聞き取れないために、正しく発音することを学習できず、発音に障害が生じる状態をいいます。

(2)形の問題によるもの

 病気やけがのために、音を作る時に使う器官(口、舌、喉、鼻の辺り)の一部が欠損したり、形が違うために起こる発音の問題で「器質性構音障害」と呼ばれます。

 先天的なものとしては、お口の中やくちびるが生まれつき割れている状態の口蓋裂、口唇裂。ベロの下の筋が短くベロが引きつってしまう等の舌の形態の異常で舌小帯短縮症などがあります。

 後天的なものとしては、がんなどの切除手術によるものが代表的です。

(3)運動の問題によるもの

 脳卒中や脳性マヒ等、発音に関わる動きをコントロールする神経の病気が原因で発音が思い通りにできない状態です。

 「運動障害性構音障害」や「ディサースリア」といいます。

(4)明らかな問題のないもの

 言語聴能訓練室でもっとも多く相談にこられるのがこのタイプです。

 上記のような明らかな原因はなく発音に誤りがあることを「機能性構音障害」といいます。

「カ行音」「サ行音」が「タ行音」になる、「キ」が「シ・チ」に似た音に聞こえるといったように、発音に関係する器官の形に問題がなく脳や神経、聴覚などに問題がないにもかかわらず発音がうまくできない状態です。

 次からは、それぞれのタイプについてもう少し詳しくお伝えします。

 

参考文献

日本言語聴覚士協会,言語聴覚療法臨床マニュアル,協同医学書出版社,1992

『いっしょに』の大切さ

こんにちは、言語聴覚士Kです。

こどもの「ことば」は生活の中でコミュニケーションをとりながら育ちます。(ことばの発達とメディア:参照)わたしたちは、コミュニケーション能力を伸ばすためにいっしょにする状況は大事だと考えています。

今回は「いっしょにする」についてお話したいと思います。

いっしょに」のことばの意味を理解できるのはだいたい2~3歳頃からです。

はじめてのことに不安を感じやすい、また人見知りがあるお子さんに「おかあさんといっしょだよ」と伝えると前に一歩踏み出せる気持ちになれるかもしれません。

うたのおにいさんとおねえさんがでる番組のタイトルにも使われていますね。

こどもにはイメージの良いことばなのでしょうか?

いっしょに」は、人への興味を持たせ社会性を育てることば として子育てに必須な声掛けのことばの1つなのです。

私たちは、言語訓練の始まりと終わりの挨拶はいっしょに言います(斉唱)。また、帰る時には「いっしょに帰ってね」「手をつないでいっしょに帰ってね」と子どもに声かけをしています。

いっしょにいろんなことをすることで確認する力も育っていくと思います。

いっしょにすることって?例えば?

🍎手をつないでいっしょにあるく 

歩き始めは手をつなぐことができても、興味あるものが視界に入るとすぐ手を放すことがあった時に「いっしょだよ。いっしょに行こうね」「いっしょに早くあるこうよ。」などと声かけをしてみてください。歩調を合わせることができるようになったら、(手を放して)横に並んで歩けるといいですね。

以前、おうちでできるあそび として紹介した新聞電車もぜひしてみてください。(ことばあそび⑤新聞電車 参照

🍎いっしょに数える 

お風呂やゲームで数えるなどの時は、数えることに夢中で初めから最後まで同じテンポで数えることが難しいかもしれません。数の理解がまだできないお子さんも、一緒に言い終わるなどを目標するなどして待つ場面をつくってみてください。

 

 

繰り返すことで周りの様子を意識し確認できるようになっていくと思います。


参考書籍:湯汲英史,子どもが伸びる関わりことば26 ー発達が気になる子へのことばかけ,2006

湯汲英史,,小倉尚子,一松麻実子,藤野泰彦,発達障害のある子どもと話す27のポイント わかりたい気持ちを高めるために,かもがわ出版,2011

赤ちゃんからの英語学習について

 

 1~3歳のくらいのお子さんの保護者の皆様から「英語は早く習わせた方がいいですか?」「英語を習わせるのは早いですか?」というご質問をよく頂きます。

 結論から言うと、言語聴覚士としてはご家族が日本語を主に使うのであれば、日本語でのコミュニケーションがしっかり取れるようになってからの方がいいと思っています。

 日本語も英語も「ことば」です。

 「ことば」を育てるには、以前もお話した「ことばの3要素」を伸ばしていくことが必要です。「ことば」は日常生活の中で体を動かして感じたりする体験、心動かされる楽しい経験の中で育っていきます。

 「ことば」がまだ未熟なお子さんの何かを伝えたいという「きもち」を身近な大人が受け止めて「ことば」で代弁してあげたり、少し広げて返したりすることで「伝わった」という体験を積みかさねて更にコミュニケーションを楽しいものとしてあげられます。

 普段の生活の楽しいやりとりの中で「ことばの3要素」を伸ばしていくことが大切です。

 また、自分の気持ちや考えを伝える為に「ことば」を使えることが大切です。

 英語学習の動画やDVDを長時間ただ流しっぱなしにするのは、言葉の学習としてはお勧めできません。

 メディアだけを使って「単語」や「文」を覚えて言えるようになっても、考える力や伝えたい気持ちを伸ばすには不十分だと考えます。

 活用する際は、他のメディアと合わせて2時間以内を目安にし、多くの教材の提供元が推奨されているようにおうちで、お子さまと一緒に楽しんでいただく”ようにし、コミュニケーションをとりながら視聴するようにしましょう。

 英語教室は、お子さんにとっては日常では感じられない体験が出来る場になると思います。お子さんが教室でどんなことをしたか、どんなことを感じたかたくさん聞いてあげくださいね。親子の楽しいコミュニケーションのきっかけになると思います。


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参考HP 中川信子 そらとも広場 英語ビデオ漬け 気をつけて

参考文献 発達教育(2014.7)P12-13

     水田愛 古石, 篤子(2000)年齢が第二言語習得に与える影響 : 早期英語教育のあり方を問う  

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ことばの発達とメディア 子どものお話する力の3要素

子どものお話する力の3要素

 こんにちは、言語聴覚士Sです。

 今日は「ことばの3要素」についてお話したいと思います。

 言語聴覚士的に「ことば」には3つの意味があります。

 例えばリンゴを見て

1<内言語:知っていること、考えること>

  

(あ、あれはりんごだ。美味しい味のたべもの)と頭の中で考えます

2<コミュニケーション意欲:伝えたい気持ち>

)〇○。

(おかあさんに、食べたいって言おう!)

3<音声言語声に出す言葉>

{りんご!

 「言えることば」は知っていることばが沢山溜まって増えていきます。

 言えることばと知っていることばの関係は氷山の絵でよく表されます。水面に出ている部分が言えることば、水中の見えない部分が分かることばです。

 知っていることばが少なければ、言えることばも少なくなり、逆に知っている言葉が増えれば言えることばも増えます。

 しかし「りんご」という事が分かっていて、声に出して正しく発音し言う事が出来る力がついていたとしても、誰かに伝えたいという気持ちがなければ「りんご」とわざわざ(声に出して言わないでおこう)となってしまいます。

 毎日、色々な経験をし身近な大人が言葉を添えてくれることで、知っている言葉を増やしていくことが出来ます。

 そして、体験したことを一緒にいつも楽しんでくれる大人に自分の気持ちや考えている事を伝えたいという気持ちが育っていきます。

 まだ、ことばが出ない小さな子には、今どんな気持ちでいるのかをよく見て話かけてあげましょう。「あー」「だー」等の喃語や泣き声に返事をしてあげたり、お世話をしてあげたりすることで

(声を出せば気持ちを分かってくれる。気持ちよくしてくれる)

 という繰り返しがとても大切です。

 


参考文献 

中川信子,心の相談医「子どもの心とことばの育ち」日本小児科医会,2019

ことばの発達とメディア

 

   今日は、私自身にも耳が痛いお話です。

 2000年代、母親と視線を合わせることができない言葉が出ないという主訴で小児科外来を受診することが増えました。

 受診したのは、市販の学習教材やビデオを使って勉強をしたり、テレビを1日何時間も視聴したりしている子ども達でした。

 そのことから2004年日本小児科医会が提言を出しました。


日本小児科医会による子どもとメディアの問題に対する提言

1) 2 歳までのテレビ・ビデオ視聴は控えましょう。

2) 授乳中,食事中のテレビ・ビデオの視聴は止めましょう。

3) すべてのメディアへ接触する総時間を制限することが重要です。1 日 2 時間までを目安と考えます。 

4) 子ども部屋にはテレビ,ビデオ,パソコンを置かないようにしましょう。

5) 保護者と子どもでメディアを上手に利用するルー ルをつくりましょう。


 長時間のメディア視聴は乳幼児の言語発達の妨げになることが分かってきています。 

 1人1台スマホがある現代、子どもが退屈な時間に利用できる動画サイトや幼児用アプリは育児の必須アイテムですよね。

 DVDインターネット、アプリを利用する際には子供と一緒に使う事でそれを会話のきっかけにしていけるといいですね。

 メディアの視聴を減らすだけでなく、コミュニケーションをとりながら視聴することで、絵本の読み聞かせと同じ様に子どものことばを増やす効果があるようです。しかしそれ以上に「やりたい」という気持ちを伸ばしていく外遊びやお手伝い、自分の身の回りのことをする経験や、親子で過ごす時間を大切にすることは「ことば」を育てていくためにとても重要なことです。

 なにより、楽しい経験のなかで、子どもが“リアルタイム”に知りたい事に答えてくれて、感じている事を言葉にしてくれるのは、身近な大人でないとできないことです。

 子どもの「ことば」は、生活の中でお父さんお母さんと体を動かしたり一緒の活動をしたりすること、視線や身振りも合わせて言われている事を理解すること、大好きな大人に伝えたいという気持ちを表現することで、育っていきます。

 次回は、ことばの3つの要素について書かせていただきます。


引用、参考HP

 日本小児医師会 子どもメディア委員会

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子どものお話する力の3要素 赤ちゃんからの英語学習について

令和2年度最後の講話に行ってきました

 こんにちは、言語聴覚士Kです。

先日、市内の子育てスペースにて今年度最後の『ことばに関する出前講座』をさせていただきました。他にも、市内児童館や子育て支援拠点施設など、いろいろな所で講話をさせていただき、皆さんにお会いすることができました。

今年度は主催の団体の方々に、コロナ感染予防の為、日程の延期、時間や人数の制限をご協力いただき、無事実施することができました。

本当にありがとうございました。

 

来年度も倉敷市内の団体を対象に出前講座を行っていきますので、どうぞよろしくお願いします。

出前講座をご希望の方は内容や日程について
電話(434-9881)でご相談ください。
その後,出前講座申請書の提出をおねがいします。

出前講座申請書はこちら

 

 

発音を育てる(舐める食べる)

 こんにちは、言語聴覚士Sです。

 今日は、お話③発音を育てる生活動作と遊び でもご紹介した、「舐める」「食べる」についてお話したいと思います

舐めるとは

 

 舐めることはどうして発音の発達に役に立つのかをお話したいと思います。

 赤ちゃんにとって舐めるという事は、その物がどういう硬さかどんな触り心地かを確かめることが出来るだけでなく、舐めたり噛んだりすることで舌や唇の動きの成長に大切な刺激を沢山受けることが出来ます。

 その刺激は脳の発達や食べる機能等の発達にとても大切な刺激です。

 物を舐めている時、物の感触だけが脳への刺激になるのではなく、「唇や舌、歯茎に物が当たっている」という刺激も脳に送られます。

 それらを総合して、その物がどんなものかを知っていきます。

 同時に自分の唇や舌がどんな形かどんなふうに動くかということも知っていくことが出来ます。

 それは赤ちゃんの脳の発達だけでなく、発音の発達に対しても重要な行動です。

 自分の唇や舌がどのような形でどのように動くかを知ることは、正しい発音を学習していく上でもとても大切なことです。

食べることも大切

 また、少し大きくなったお子さんは成長とともになんでも口に入れるという事はなくなってくるので、口の中に刺激をうけるチャンスは歯磨きや食事、おやつの時間です。

 しっかり歯磨きやうがいをすることは口をきれいにするだけでなく歯や舌の位置を知る機会にもなります。

 食べることでも、食べ物をちょうどいい大きさにちぎりとったり、ベロで食べ物を噛みやすい場所に置いたりすることで唇や舌を思い通りに動かすことを学んでいきます。

 熱いものを「フーフー」と冷ましたり、ラムネをなめて食べてみたり、ちょっと大きな海苔巻き等をかじったり、たまにはいつも食べるものとは違うものや違う食べ方をしてみてもいいかもしれませんね😊

発音を育てる(うがい)

まだまだ、色々なことが心配な日々が続いていますが皆さんお元気ですか?

言語聴覚士のSです。

 

 

発音のお話③発音を育てる生活動作と遊び でもご紹介した「うがい」についてお話したいとおもいます。

「うがい」は発音の相談に来られた方に、おうちで練習してみてください。

とお伝えすることがあります。

 それは、主に「カ行」の発音の口の動きと「うがい」の時の口の動きに共通点があるからです。

 でも、意外と「うがい」子どもにとっては難しいことなので、スモールステップでゆっくり練習してみてくださいね。


ぶくぶくうがい、ガラガラうがいどちらのうがいも、食べたり話したりする為に口を動かす力の発達と関連があります。

ブクブクうがい(口の洗浄)は、3歳から4歳でできるようになるそうです。

ガラガラうがい(のどの洗浄) は、奥舌で水が喉に流れていかないようにふさぎながら、息をはきながら行うため、ブクブクうがいに比べて難しい動作です。
 だいたい4歳から5歳児でできるようになるそうです。

 

3歳を過ぎてきたら、「ブクブクうがい」から「ガラガラうがい」と徐々に練習していくと、色々な舌の動きを経験することができます。


 

[ブクブクうがい]

①口に水を含んで、そのまま飲む

②水を飲んでから「ペー」と言いながら吐き出すまねをする。

③一旦、口の中に水を貯めて「ペー」と吐き出す。

④口の中に貯めた水を両側の頬を同時に動かして吐き出す。

⑤口の中に貯めた水を左右の頬を交互に動かして吐き出す。

[ガラガラうがい]

①水を口に含んで上を向く練習から始めます。このとき、この時、舌の奥で喉をふさぐ動きをします。

 ②ごっくんと飲み込んでしまわなくなったら、上を向いたまま、口を開けて息を出す練習をします。ゴロゴロと軽い音がするくらいで充分です。

難しければ、少量の水から練習しましょう。

 ③水でむせたり、ごっくんと飲みこんだりしてしまわないようなら、息を吐く力を強めます。 ガラガラという音が出せる様に練習します。

 

簡単なようで、意外とむずかしい「うがい」

まずは、おうちの人と一緒に真似するところからやってみてくださいね。

また、最初はびちょびちょになるかもしれないので、入浴中など濡れてもいい場所、いい服装でやってみてください。

そして、うまくできなくてもがんばれたら褒めてあげましょう。

 

参考HP

日本歯科医師会