コミュニケーションを豊かにするために① 

今回は要求することについてのお話です。

要求はコミュニケーション発達の初めの段階にみられる重要な能力です。

要求には、意欲(~したい気持ち)が伴います。1歳頃から興味の幅が広がり、

2~3歳になると、「~したい」気持ちが増え、たくさん要求するようになります。

要求の多いこどもとはやりとりの回数も増えますよね。

こどもの要求が少ない、自発的な言動が少ないことを心配されている方は、

日常場面で理解できている状況をあえて不完全な状態にして、こどもがどんな反応をするか、様子をみて(観察する)はどうでしょうか? 

要求方法は指さしでもことばでもOK。こどもの意図をよみすぎず、要求がでるのを待ってあげることがポイント。

とはいえ、気持ちが強すぎるとお互いに待てないことはあります。

例えば、食事の時にスプーンを用意し忘れる とか?

こども「!!…。ママ」

ママ「なに?」

こども「(スプーン)ない。」

ママ「ないね?スプーン?」

こども「うん。」

ママ「スプーンいる?」

こども「スプーンちょうだい。」 (ジェスチャーでも問いかけに反応すればOK)   

ママ「よく気付いたね。教えてくれてありがとう。(スプーン)取ってくるまで待っててね。」

こどもの自発的な気づきや言動を褒められる、要求が達成されることが良い経験となり、次の活動力Upへとつながることがあります。

ことばに限らずいろんな要求や返答することを目標こども自身が考える大人は要求を待つなどの状況をつくって楽しくやりとりしてみてください。

 


参考書籍:

湯汲英史,子どもが伸びる関わりことば26 ー発達が気になる子へのことばかけ,2006

湯汲英史,小倉尚子,一松麻実子,藤野泰彦,発達障害のある子どもと話す27のポイント わかりたい気持ちを高めるために,かもがわ出版,2011

バイバイ

コロナ禍でなかなか外出する気になれなかったかと思います。

大人も、こどももお出かけすると気分転換になりますよね。

今回は挨拶の1つ「バイバイ」についてお話します。

 

「バイバイ」は、人と別れるときの(他者の方に手の平をみせて振る)動作です。

バイバイは、模倣動作(まねっこ)を楽しみだすようになった頃に大人の動きを真似(模倣)してできるようになります。この頃はバイバイの意味や状況をわかっていません。「バイバイした後に、、、、泣き出す赤ちゃん」よくある場面です。

この頃は、まねっこ(模倣動作)が上手なので、おとなが、いろいろやってみせてあげることで興味をもって動作を繰り返すようになると思います。

そのあと、単なる動作模倣から、バイバイ後に人がいなくなる(他者の行動)ことを経験し、「バイバイ(他者の方に手の平をみせて手を振る)」=人と別れる時の言動 と理解するようになります。

このように、手の運動(微細運動)、言語理解、言語表出それぞれの発達が関連しています。

こどもの自発的なバイバイを周囲がキャッチして反応(笑顔、声掛けなど)することで、他者への興味が広がり、コミュニケーションにつなげていくことができるといいですね。

 

 

 


参考文献

松井 学洋,中井 靖,高田 哲,(2017)微細運動と言語能力の発達からみた模倣動作「バイバイ」

 

 

 

 

子どもからの「これは?」にどうこたえる?

指差しやバイバイなどが出来るようになり、言えることばも「ぱぱ いった」等、ことばをつなげて話せるようになってくると、しきりに指さしをしながら「これ?」「これ何?」と同じ質問を繰り返しされるようになります。
子どもによっては心配になるくらい。一日に何度も同じ物を指差し「これは?」「これは?」「これは?」と聞いてくることもありますよね。

物の名前が長くて、うまく聞き取れないでいることもあるかもしれません。

「これは?」と聞くと大人がいつも同じように答えてくれるという繰り返しのやり取りをして楽しんでいるという場合もあります。

他にも、子ども達の「これは?」には
「これの名前は?」
「これの使い方は?」
「これは、何をするもの?」
「これは何色?」
「これは誰の?」
「これは〇〇であってる?」
「これで遊んでいい?」等

色々な質問が隠れている事があります。
また、お父さんからは「トラック」と教えてもらったのに、お母さんは「ダンプカー」と教えてくれた。
という事があれば「これはトラックじゃないの?」と確認しているのかもしれません。

少しずつ、会話も楽しめるようになってくる時期なので

「これは何?」という質問に「これは、何だと思う?」と質問を返してみても、やり取りを楽しんでくれるかもしれません。

ただ、「これは何か言ってごらん。知ってるでしょ」等テストするようなことや言えるか試すような言い方はしないようにしましょう。

まだまだ「これは?」と単純な聞き方しかできない段階だとしても、身近な大人が状況や視線等から知りたいことを想像して応えてくれることでことばの数を増やしたり、意味を知ったりしていきます。

質問攻めが始まるころは、話しことばだけでのコミュニケーションが難しく単語と身振りを組み合わせた表現なども多く見られます。

子どものことばだけでなく、何を言おうとしているのか、何を知りたいと思っているのかを指差しや身振り、視線にも注目してあげながらコミュニケーションができるといいですね。


参考文献

監修中川信子,ことばの育み方, NHK出版, 2010

堀彰人(2017),幼児期のコミュニケーションの発達-会話における「明瞭化要求」を中心に‐

 

 

指さしで伝え合う

指さしは非言語コミュニケーション手段の1つとしてことばの発達に大きく関係しており、コミュニケーション場面で受信と発信どちらの場面にも使うことができる動作です。

生まれてから人とかかわる物とかかわる物を仲立ちしとしてかかわる経験をしていく中で指さしの意味も変わってきます。

発信の指さしは、

見つけたものを指さす、自分の欲しいものを指さす、何かを見つけた時に「あっ」と指さしながらおかあさん(他者)を共感するようにみるなどがあります。

指さしが出始めの頃は、お子さんの一方的な動きとなりがちです。でも、お子さんの指さしに大人が「ワンワンだねぇ」「おさかなさん、いなくなったね」などの関わりを繰り返すことで他者や物への興味が広がり、注目が続くようになっていきます。

「わかったこと」「伝えたい気持ち」を増やすことは、ことばの発達にもつながっていきます。

受信の指さしは、

「電車どれかな?」の問いかけに指さしで応じる。また走り去った方向を一緒にみて指さしをする。などです。例えば、ことばをしゃべらなくても、離れたところにいる電車を指さして、やりとりができますよね。

大人:「電車どこ?」

こども:「あっ」電車を指さしする

大人:「あっちにいったね。」

こども:「た」電車の向かった方を指さす

 

応答の指さしは、物を仲立ちしとしてかかわる三項関係が成立しており、こちらの問いかけを理解し、応えて伝えようとする能力が必要です。

指さしは興味や関心、要求、応答が含まれる反応で、視線や注意を向けるようにお互いに促し、情報の伝達をしやすくする動作です。

指さしをつかって「わかったこと」「伝えたい気持ち」をお互いに伝えてみましょう。

ことばの最初や最後だけしか言わない

 「りんご」を「ご」と言うなど

 単語の名前の最初や最後だけしか言わない。というご相談を受けることがあります。

 「りんご」と伝えたいのだけれどうまく言えず「ご」と発音したり、「ひこうき」を「こーき」と発音することを専門用語で「ワードパーシャル」と言います。

 こういう、単語の一部だけしか言わない時期は言葉の出始めから2歳代くらいまでは、比較的よく見られます。文も話しているようだけど一部だけしかはっきり聞き取れず 🙁 (何か伝えたいんだろうけど、よくわからないな)ともどかしい経験をされている保護者の方は多いのではないでしょうか?

 発音の未熟さでもありますが、音を覚えておくことや複数の音を頭の中で並べる事の未熟さが原因であることもあります。

 こんな時思わず一文字ずつ復唱させて

   :-) 大人「り」→子「り」

   🙂 大人「ん」→子「ん」

   🙂 大人「ご」→子「ご」

   🙂 大人「りんご」→子「ご」

 と言わせたくなってしまうものですが”りんご”だと言えない。という事はよくあります。

 でも、子どもは“りんご”と言っているつもりなので言いたい気持ちを汲み取って「そう、り ん ご」と正しい言葉をゆっくり、聞き取りやすい発音で復唱してあげましょう。

 何度も聞くことで記憶が強化され音を組み立てる力にも繋がります。

 文字に興味のある子なら、文字も一緒に示してあげてもいいでしょう。

 

 3歳を過ぎても言葉の一部を言うことの方が多く、正しく言える言葉が増えないような時は、専門家と丁寧に様子を見守りながら成長を観察することが必要な事があります。また、ことばを聞く練習やことばを組み立てる練習が必要なことがありますので小児科医や保健師さん、専門家(言語聴覚士など)に相談してみてください。


参考文献

言語委員会言語発達遅滞小委員会(1998)〈S-S法 〉言語発達遅滞検査 を用いた健常幼児の言語能力調査

喃語②

 赤ちゃんがいろいろな声を発するようになるとコミュニケーションが広がっていきます。そして、喃語が出てくるためには、大人との関わりを楽しいと思う機会をたくさんもつことが大切です。

たくさん笑う 😆 

 まずは、たくさん笑う機会を作っていきましょう。

 クーイング「うー」「くー」など声を出す段階で、身近な人が反応を繰り返していくくと、周囲の反応に対して赤ちゃんは声を出して笑うようになるだけでなく、気に入らない事があると泣くことも増えてきます。こうやって、笑ったり泣いたりして声を出す練習をすることができます。

 この時、赤ちゃんの泣き声や発声に好意的な態度(優しく触れる、柔らかい声で話す)で周囲の人がかまってあげることで、コミュニケーションの楽しさを知っていくことも出来ます。 

話しかける 😛 

 聞く力が未発達な赤ちゃんへの話かけには、少しだけコツがあります。

 講話でも毎回お話していることなので言語聴能訓練室をご存じの方々は「それ、もう聞いた」と思われるかもしれませんが簡単におさらいさせてくださいね。

赤ちゃんへの話しかけのコツ

ゆっくり

はっきり

みじかく

くりかえす

 赤ちゃんは聞く力や覚える力が、まだまだ未熟です。

 一度に多くの内容を、大人に話すのと同じ速さで聞かされても

 覚えきれないし、すべてを正しく聞き取ることが出来ません。

 そこで、4つのコツ🍎ゆっくり🍎はっきり🍎みじかく🍎くりかえす

 を気をつけて普段のお世話の中で話しかけることで、赤ちゃんが大人のことばに興味を示しやすくなり、ことばの獲得につながっていきます。

 

中川信子,心の相談医「子どもの心とことばの育ち」日本小児科医会,2019

阿部五月, 藤永 保,田中規子(2001) 発達初期の理解語彙の獲得(Ⅱ) 家庭訪問調査(1)

関連記事

喃語①

喃語①

 赤ちゃんが「ぶぶー」「まんま」など二つ以上の音を発することを「喃語(なんご)」といいます。

 喃語は言葉の発達過程にみられ「コミュニケーションの始まり」でもあります。赤ちゃんと楽しくやり取りしてみましょう。

喃語が出るまでの過程

泣く

 生後間もなくから、赤ちゃんは泣くことで「気持ちわるい!」「お腹すいた!」と泣くことで知らせてくれますが、まだこの段階では不快な事を知らせているだけで「おしめを変えてほしいんだー!」と、してほしいことを知らせようとしているのではないそうです。

 それでも、泣けば「気持ちよくしてくれる」「お腹いっぱいにしてくれる」と言う事知っていく大切な機会になります。

クーイング

生後2ヵ月頃を過ぎると、「あー」「くー」とご機嫌に声を出すようになります。

徐々にあやされると笑ったり、手足をバタバタしたりするようになります。

赤ちゃん自分から、身近な大人に笑いかけたりとするようになるのもこの頃です。

赤ちゃんの声をまねしたり「ごきげんだね」と優しく返事することでコミュニケーションをしましょう。

赤ちゃんも、大人の声や動きをまねたりしてやり取りらしい関わりができるようになってきます。

喃語

4~6ヵ月頃以降。首も座り自分の体を支える力がついてくると喃語が出始めます。

唇や舌を使っての「ぶー」「だー」から次第に「あむあむ」「んまんま」などの色々な音を出すようになります。

喃語は、人とのコミュニケーションの楽しさを知っていく第一歩です。意味のない音に聞こえますが、クーイングの時と同様に声を真似たり、返事をしてあげながら声を出すことを楽しめるように相手をしてあげましょう。


中川信子,心の相談医「子どもの心とことばの育ち」日本小児科医会,2019

阿部五月, 藤永 保,田中規子(2001) 発達初期の理解語彙の獲得(Ⅱ) 家庭訪問調査(1)

関連記事

喃語②

ことばあそび⑪「だれのこえ?」

こんにちは。言語聴覚士Kです。

ことばあそび ⑪

お出かけ中の車の中など、どこでもできますよ。

お子さんとのことばあそび、ぜひやってみてください。

【対象】 年少~

【ねらい】
 (1)注目する

 (2)音を聞く

 (3)ことばをふやす
  

【できるにんずう】 2人以上

【やりかた】

1.もんだいを だす ひとは 「ワンワン だれのこえ?」 🙄 ?と 

  たずねます。

2.「いぬ」 など答えられるかな?

 お子さんと保護者の方と順番に問題をだしあってみましょう。

 自分で問題を考える練習にもなりますよ。

 他にどんな動物(ねこ・やぎ・とりなど)がどんな鳴き声をしているか、お父さんやお母さんの声の真似っこなど、色んな声を考えてみたり、探してみたりしても楽しいですね。

機能性構音障害

 言語聴能訓練室の発音の相談で最も多いのが、このタイプです。

 「サ行が言えない」「発音がはっきりしない」「ことばが遅い」等で相談に来られることが多いです。 

 今まで「発音のお話」で書かせていただいている記事は、この機能性構音障害について書かせていただいています。

 大体は、発音の発達過程でみられる子音の誤りであることが多く、経過を観察する中で自然と正しい発音を獲得することが可能な時もありますが、そのまま癖になってしまうこともあります。

 中には発音の発達の過程では普通は出現しない誤りをする子どももいます。その場合は自然に正しい音を獲得できる場合は少なく、練習が必要になることが殆どです。

 機能性構音障害の誤りは、構音訓練で正しい音を獲得できることが多いです。

 誤り方によっては、聞き手が全く違和感を感じない状態になるには時間がかかることもあります。

 構音訓練をすることで、学校の本読みや電話では気を付けて正しく発音することが出来るけれど、リラックスしてご家族と話している時は誤りがあるなど、その子によって普段から気を付けられる度合いが違います。発音の誤りに自分で気づき、目的の音を数回の言い直しで正しく言えるようなら問題ありません。

 以前も「発音(滑舌)様子をみましょうと言われたら」で書かせていただいたように、機能性構音障害は早期に構音訓練を行う方が良いとは限りません。

 「発音のお話②大人が発音の見本に発音のお話③発音を育てる生活動作と遊びを参考に、ご家庭で訓練が開始できる時期まで様子をみてもらえたらと思います。

 機能性構音障害だと思っていても、滑舌や発音の誤りにはごく稀ですが器質性の問題が隠れていることもあります。

 ご家族が「違和感があるな」「これは様子をみてもいいのかな?」と不安な際や相談機関で受診を勧められた際は医師や歯科医師に相談するようにしましょう。

関連記事

構音障害(発音の障害)器質性構音障害運動性構音障害発音のお話①発音の発達

参考文献

日本言語聴覚士協会,言語聴覚療法臨床マニュアル,協同医学書出版社,1992

運動性構音障害

 運動性構音障害とは、いわゆる脳卒中やALS、パーキンソン病、脳性マヒなど、発音に関わる動きをコントロールする神経の病気が原因で発音が思い通りにできない状態です。

「麻痺性構音障害」や「ディサースリア」ともいいます。

「ろれつが回らない」という状態が多く、話がはっきりしない、鼻声が酷い等の訴えが多数です。話すリズム・速さ・アクセント・イントネーションの異常を併発することもあります。

 原因となる疾患がある為、主治医からの依頼を受けて言語聴覚士が検査、評価を行います。

 訓練で改善は見込めますが、疾患による運動障害そのものを改善することには限界があります。発症前と同程度に自然な状態に戻ることは容易ではなく個人差がすごく大きいです。

 どのようなリハビリをどのように進めていくかは主治医である医師としっかり相談しながら行うことが大切です。

 ある日突然に「ろれつが回らない」「言葉がうまく話せない」という症状が出た際にはただちに病院受診をしましょう。


参考文献

日本言語聴覚士協会,言語聴覚療法臨床マニュアル,協同医学書出版社,1992