構音障害(発音の障害)

 言語聴能訓練室には、発音の相談が沢山寄せられます。

 そこで、正しく発音できない原因について、ざっくりですがお話してみたいと思います。

 正しく言葉を発音できないこと、を専門用語で「構音障害」といいます。

 構音障害は大きく分けると、聴覚に障害によって正しい発音が学習できないもの、形の問題、運動の問題、明らかな問題のないもの、4つに分類できます。

(1)聴覚の問題によるもの

 聴覚性構音障害は、いわゆる難聴により手本となる正しい発音や自分の発音を聞き取れないために、正しく発音することを学習できず、発音に障害が生じる状態をいいます。

(2)形の問題によるもの

 病気やけがのために、音を作る時に使う器官(口、舌、喉、鼻の辺り)の一部が欠損したり、形が違うために起こる発音の問題で「器質性構音障害」と呼ばれます。

 先天的なものとしては、お口の中やくちびるが生まれつき割れている状態の口蓋裂、口唇裂。ベロの下の筋が短くベロが引きつってしまう等の舌の形態の異常で舌小帯短縮症などがあります。

 後天的なものとしては、がんなどの切除手術によるものが代表的です。

(3)運動の問題によるもの

 脳卒中や脳性マヒ等、発音に関わる動きをコントロールする神経の病気が原因で発音が思い通りにできない状態です。

 「運動障害性構音障害」や「ディサースリア」といいます。

(4)明らかな問題のないもの

 言語聴能訓練室でもっとも多く相談にこられるのがこのタイプです。

 上記のような明らかな原因はなく発音に誤りがあることを「機能性構音障害」といいます。

「カ行音」「サ行音」が「タ行音」になる、「キ」が「シ・チ」に似た音に聞こえるといったように、発音に関係する器官の形に問題がなく脳や神経、聴覚などに問題がないにもかかわらず発音がうまくできない状態です。

 次からは、それぞれのタイプについてもう少し詳しくお伝えします。

 

参考文献

日本言語聴覚士協会,言語聴覚療法臨床マニュアル,協同医学書出版社,1992

『いっしょに』の大切さ

こんにちは、言語聴覚士Kです。

こどもの「ことば」は生活の中でコミュニケーションをとりながら育ちます。(ことばの発達とメディア:参照)わたしたちは、コミュニケーション能力を伸ばすためにいっしょにする状況は大事だと考えています。

今回は「いっしょにする」についてお話したいと思います。

いっしょに」のことばの意味を理解できるのはだいたい2~3歳頃からです。

はじめてのことに不安を感じやすい、また人見知りがあるお子さんに「おかあさんといっしょだよ」と伝えると前に一歩踏み出せる気持ちになれるかもしれません。

うたのおにいさんとおねえさんがでる番組のタイトルにも使われていますね。

こどもにはイメージの良いことばなのでしょうか?

いっしょに」は、人への興味を持たせ社会性を育てることば として子育てに必須な声掛けのことばの1つなのです。

私たちは、言語訓練の始まりと終わりの挨拶はいっしょに言います(斉唱)。また、帰る時には「いっしょに帰ってね」「手をつないでいっしょに帰ってね」と子どもに声かけをしています。

いっしょにいろんなことをすることで確認する力も育っていくと思います。

いっしょにすることって?例えば?

🍎手をつないでいっしょにあるく 

歩き始めは手をつなぐことができても、興味あるものが視界に入るとすぐ手を放すことがあった時に「いっしょだよ。いっしょに行こうね」「いっしょに早くあるこうよ。」などと声かけをしてみてください。歩調を合わせることができるようになったら、(手を放して)横に並んで歩けるといいですね。

以前、おうちでできるあそび として紹介した新聞電車もぜひしてみてください。(ことばあそび⑤新聞電車 参照

🍎いっしょに数える 

お風呂やゲームで数えるなどの時は、数えることに夢中で初めから最後まで同じテンポで数えることが難しいかもしれません。数の理解がまだできないお子さんも、一緒に言い終わるなどを目標するなどして待つ場面をつくってみてください。

 

 

繰り返すことで周りの様子を意識し確認できるようになっていくと思います。


参考書籍:湯汲英史,子どもが伸びる関わりことば26 ー発達が気になる子へのことばかけ,2006

湯汲英史,,小倉尚子,一松麻実子,藤野泰彦,発達障害のある子どもと話す27のポイント わかりたい気持ちを高めるために,かもがわ出版,2011

赤ちゃんからの英語学習について

 

 1~3歳のくらいのお子さんの保護者の皆様から「英語は早く習わせた方がいいですか?」「英語を習わせるのは早いですか?」というご質問をよく頂きます。

 結論から言うと、言語聴覚士としてはご家族が日本語を主に使うのであれば、日本語でのコミュニケーションがしっかり取れるようになってからの方がいいと思っています。

 日本語も英語も「ことば」です。

 「ことば」を育てるには、以前もお話した「ことばの3要素」を伸ばしていくことが必要です。「ことば」は日常生活の中で体を動かして感じたりする体験、心動かされる楽しい経験の中で育っていきます。

 「ことば」がまだ未熟なお子さんの何かを伝えたいという「きもち」を身近な大人が受け止めて「ことば」で代弁してあげたり、少し広げて返したりすることで「伝わった」という体験を積みかさねて更にコミュニケーションを楽しいものとしてあげられます。

 普段の生活の楽しいやりとりの中で「ことばの3要素」を伸ばしていくことが大切です。

 また、自分の気持ちや考えを伝える為に「ことば」を使えることが大切です。

 英語学習の動画やDVDを長時間ただ流しっぱなしにするのは、言葉の学習としてはお勧めできません。

 メディアだけを使って「単語」や「文」を覚えて言えるようになっても、考える力や伝えたい気持ちを伸ばすには不十分だと考えます。

 活用する際は、他のメディアと合わせて2時間以内を目安にし、多くの教材の提供元が推奨されているようにおうちで、お子さまと一緒に楽しんでいただく”ようにし、コミュニケーションをとりながら視聴するようにしましょう。

 英語教室は、お子さんにとっては日常では感じられない体験が出来る場になると思います。お子さんが教室でどんなことをしたか、どんなことを感じたかたくさん聞いてあげくださいね。親子の楽しいコミュニケーションのきっかけになると思います。


関連記事 

参考HP 中川信子 そらとも広場 英語ビデオ漬け 気をつけて

参考文献 発達教育(2014.7)P12-13

     水田愛 古石, 篤子(2000)年齢が第二言語習得に与える影響 : 早期英語教育のあり方を問う  

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ことばの発達とメディア 子どものお話する力の3要素

子どものお話する力の3要素

 こんにちは、言語聴覚士Sです。

 今日は「ことばの3要素」についてお話したいと思います。

 言語聴覚士的に「ことば」には3つの意味があります。

 例えばリンゴを見て

1<内言語:知っていること、考えること>

  

(あ、あれはりんごだ。美味しい味のたべもの)と頭の中で考えます

2<コミュニケーション意欲:伝えたい気持ち>

)〇○。

(おかあさんに、食べたいって言おう!)

3<音声言語声に出す言葉>

{りんご!

 「言えることば」は知っていることばが沢山溜まって増えていきます。

 言えることばと知っていることばの関係は氷山の絵でよく表されます。水面に出ている部分が言えることば、水中の見えない部分が分かることばです。

 知っていることばが少なければ、言えることばも少なくなり、逆に知っている言葉が増えれば言えることばも増えます。

 しかし「りんご」という事が分かっていて、声に出して正しく発音し言う事が出来る力がついていたとしても、誰かに伝えたいという気持ちがなければ「りんご」とわざわざ(声に出して言わないでおこう)となってしまいます。

 毎日、色々な経験をし身近な大人が言葉を添えてくれることで、知っている言葉を増やしていくことが出来ます。

 そして、体験したことを一緒にいつも楽しんでくれる大人に自分の気持ちや考えている事を伝えたいという気持ちが育っていきます。

 まだ、ことばが出ない小さな子には、今どんな気持ちでいるのかをよく見て話かけてあげましょう。「あー」「だー」等の喃語や泣き声に返事をしてあげたり、お世話をしてあげたりすることで

(声を出せば気持ちを分かってくれる。気持ちよくしてくれる)

 という繰り返しがとても大切です。

 


参考文献 

中川信子,心の相談医「子どもの心とことばの育ち」日本小児科医会,2019

ことばの発達とメディア

 

   今日は、私自身にも耳が痛いお話です。

 2000年代、母親と視線を合わせることができない言葉が出ないという主訴で小児科外来を受診することが増えました。

 受診したのは、市販の学習教材やビデオを使って勉強をしたり、テレビを1日何時間も視聴したりしている子ども達でした。

 そのことから2004年日本小児科医会が提言を出しました。


日本小児科医会による子どもとメディアの問題に対する提言

1) 2 歳までのテレビ・ビデオ視聴は控えましょう。

2) 授乳中,食事中のテレビ・ビデオの視聴は止めましょう。

3) すべてのメディアへ接触する総時間を制限することが重要です。1 日 2 時間までを目安と考えます。 

4) 子ども部屋にはテレビ,ビデオ,パソコンを置かないようにしましょう。

5) 保護者と子どもでメディアを上手に利用するルー ルをつくりましょう。


 長時間のメディア視聴は乳幼児の言語発達の妨げになることが分かってきています。 

 1人1台スマホがある現代、子どもが退屈な時間に利用できる動画サイトや幼児用アプリは育児の必須アイテムですよね。

 DVDインターネット、アプリを利用する際には子供と一緒に使う事でそれを会話のきっかけにしていけるといいですね。

 メディアの視聴を減らすだけでなく、コミュニケーションをとりながら視聴することで、絵本の読み聞かせと同じ様に子どものことばを増やす効果があるようです。しかしそれ以上に「やりたい」という気持ちを伸ばしていく外遊びやお手伝い、自分の身の回りのことをする経験や、親子で過ごす時間を大切にすることは「ことば」を育てていくためにとても重要なことです。

 なにより、楽しい経験のなかで、子どもが“リアルタイム”に知りたい事に答えてくれて、感じている事を言葉にしてくれるのは、身近な大人でないとできないことです。

 子どもの「ことば」は、生活の中でお父さんお母さんと体を動かしたり一緒の活動をしたりすること、視線や身振りも合わせて言われている事を理解すること、大好きな大人に伝えたいという気持ちを表現することで、育っていきます。

 次回は、ことばの3つの要素について書かせていただきます。


引用、参考HP

 日本小児医師会 子どもメディア委員会

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子どものお話する力の3要素 赤ちゃんからの英語学習について

令和2年度最後の講話に行ってきました

 こんにちは、言語聴覚士Kです。

先日、市内の子育てスペースにて今年度最後の『ことばに関する出前講座』をさせていただきました。他にも、市内児童館や子育て支援拠点施設など、いろいろな所で講話をさせていただき、皆さんにお会いすることができました。

今年度は主催の団体の方々に、コロナ感染予防の為、日程の延期、時間や人数の制限をご協力いただき、無事実施することができました。

本当にありがとうございました。

 

来年度も倉敷市内の団体を対象に出前講座を行っていきますので、どうぞよろしくお願いします。

出前講座をご希望の方は内容や日程について
電話(434-9881)でご相談ください。
その後,出前講座申請書の提出をおねがいします。

出前講座申請書はこちら

 

 

発音を育てる(舐める食べる)

 こんにちは、言語聴覚士Sです。

 今日は、お話③発音を育てる生活動作と遊び でもご紹介した、「舐める」「食べる」についてお話したいと思います

舐めるとは

 

 舐めることはどうして発音の発達に役に立つのかをお話したいと思います。

 赤ちゃんにとって舐めるという事は、その物がどういう硬さかどんな触り心地かを確かめることが出来るだけでなく、舐めたり噛んだりすることで舌や唇の動きの成長に大切な刺激を沢山受けることが出来ます。

 その刺激は脳の発達や食べる機能等の発達にとても大切な刺激です。

 物を舐めている時、物の感触だけが脳への刺激になるのではなく、「唇や舌、歯茎に物が当たっている」という刺激も脳に送られます。

 それらを総合して、その物がどんなものかを知っていきます。

 同時に自分の唇や舌がどんな形かどんなふうに動くかということも知っていくことが出来ます。

 それは赤ちゃんの脳の発達だけでなく、発音の発達に対しても重要な行動です。

 自分の唇や舌がどのような形でどのように動くかを知ることは、正しい発音を学習していく上でもとても大切なことです。

食べることも大切

 また、少し大きくなったお子さんは成長とともになんでも口に入れるという事はなくなってくるので、口の中に刺激をうけるチャンスは歯磨きや食事、おやつの時間です。

 しっかり歯磨きやうがいをすることは口をきれいにするだけでなく歯や舌の位置を知る機会にもなります。

 食べることでも、食べ物をちょうどいい大きさにちぎりとったり、ベロで食べ物を噛みやすい場所に置いたりすることで唇や舌を思い通りに動かすことを学んでいきます。

 熱いものを「フーフー」と冷ましたり、ラムネをなめて食べてみたり、ちょっと大きな海苔巻き等をかじったり、たまにはいつも食べるものとは違うものや違う食べ方をしてみてもいいかもしれませんね😊

発音を育てる(うがい)

まだまだ、色々なことが心配な日々が続いていますが皆さんお元気ですか?

言語聴覚士のSです。

 

 

発音のお話③発音を育てる生活動作と遊び でもご紹介した「うがい」についてお話したいとおもいます。

「うがい」は発音の相談に来られた方に、おうちで練習してみてください。

とお伝えすることがあります。

 それは、主に「カ行」の発音の口の動きと「うがい」の時の口の動きに共通点があるからです。

 でも、意外と「うがい」子どもにとっては難しいことなので、スモールステップでゆっくり練習してみてくださいね。


ぶくぶくうがい、ガラガラうがいどちらのうがいも、食べたり話したりする為に口を動かす力の発達と関連があります。

ブクブクうがい(口の洗浄)は、3歳から4歳でできるようになるそうです。

ガラガラうがい(のどの洗浄) は、奥舌で水が喉に流れていかないようにふさぎながら、息をはきながら行うため、ブクブクうがいに比べて難しい動作です。
 だいたい4歳から5歳児でできるようになるそうです。

 

3歳を過ぎてきたら、「ブクブクうがい」から「ガラガラうがい」と徐々に練習していくと、色々な舌の動きを経験することができます。


 

[ブクブクうがい]

①口に水を含んで、そのまま飲む

②水を飲んでから「ペー」と言いながら吐き出すまねをする。

③一旦、口の中に水を貯めて「ペー」と吐き出す。

④口の中に貯めた水を両側の頬を同時に動かして吐き出す。

⑤口の中に貯めた水を左右の頬を交互に動かして吐き出す。

[ガラガラうがい]

①水を口に含んで上を向く練習から始めます。このとき、この時、舌の奥で喉をふさぐ動きをします。

 ②ごっくんと飲み込んでしまわなくなったら、上を向いたまま、口を開けて息を出す練習をします。ゴロゴロと軽い音がするくらいで充分です。

難しければ、少量の水から練習しましょう。

 ③水でむせたり、ごっくんと飲みこんだりしてしまわないようなら、息を吐く力を強めます。 ガラガラという音が出せる様に練習します。

 

簡単なようで、意外とむずかしい「うがい」

まずは、おうちの人と一緒に真似するところからやってみてくださいね。

また、最初はびちょびちょになるかもしれないので、入浴中など濡れてもいい場所、いい服装でやってみてください。

そして、うまくできなくてもがんばれたら褒めてあげましょう。

 

参考HP

日本歯科医師会

発音(滑舌)様子を見ましょうと言われたら④

 

 

 

 こんにちは、言語聴覚士Sです。

 これまでお話してきたように、発音の練習を希望して「発音の練習をした方がいい」と言われたのに直接的な練習をすぐに始めない場合もあります。

 前回までに言葉を正しく理解することや音を聞き分ける力等、聞く力を育てることが優先の場合があることをお伝えしました。

 注意を向けることができる力

 言葉を正しく理解したり、自分の言葉を聞き分ける為にはまず、椅子に座ってジッとし目の前のことに注意を向けること、自分がすることに集中することが必要です。

集中していない子ども

 しかも子どもにとっては、「どうしてこんなことするの??」と思うようなことや、普段は意識したことがないようなベロの動きを練習するので、いつも以上に集中する力が必要になります。

 苦手な事に挑戦する気持ちも大事

 さらに、発音の練習を始める為には「別にしたくないけど」「自分がしたいことじゃないけど」やってみようと言われたことにも取り組む力が必要です。

 また、苦手だと思っている事も頑張ってやってみる気持ちも必要です。

 発音の練習を効果的に進める為には以前にも書きましたが、自分の「発音の誤り」に気づく力も必要です。しかし、自分の発音は間違っていると気づくことは、自分は「上手く話せない」という気持ちを感じてしまうことになるかもしれません。

 自分が上手くできないと思っている事を練習するのは、大人にとっても大変なことです。

 自分は「苦手なことがあるけれど、頑張れる」「ちょっと難しいことをするのも楽しい」

 そんな風に、思えるようになる為には生活の中の「できた」「がんばった」を積み重ねることがとっても大切です。

 体や手指を使う、耳で聞く、言葉を読み解く、自分の言ったことをチェックする。そして、集中する力、苦手な事にも挑戦する気持ち。発音の練習をしていく上で全て大切な事です。

先生や言語聴覚士に相談を

 ただ、これらの力があるないだけではなく、どこまで力がついてきているかを確認することも必要です。

 いつも、お子さんの近くにいると「どこまでできているか」はなかなか判断するのは難しいものです。

 通級指導教室の先生方や言語聴覚士は、「どんなことから練習したらいい?」「練習の開始のタイミングは?」等、お子さんの様子を総合的、客観的に評価します。

 言語聴能訓練室でも言語聴覚士が今後についてサポートさせていただきますので、ご相談ください。

関連記事

言葉の相談について  発音のお話①発音の発達  発音のお話②大人が発音の見本に  発音のお話③発音を育てる生活動作と遊び  

参考文献

中川信子,日本小児耳鼻咽喉科学会,子どものこころとことばの育ち―親子を共に支援するために,日本小児耳鼻咽喉科学会総会,2013

日本言語聴覚士協会,言語聴覚療法臨床マニュアル,協同医学書出版社,1992